知のいずみ2006

新入生におすすめの本 三重大学教育学部教授 上垣 渉

野口恵子 『かなり気がかりな日本語』 集英社新書、2004年発行

野口恵子 『かなり気がかりな日本語』 集英社新書、2004年発行

大学生になると、これまで以上にレポートを書く機会が多くなる。そのとき、適切な日本語の使用が要求される。「話し言葉」と「書き言葉」は明らかに異なるにもかかわらず、これを混同する学生が多い。また、単なる説明や感想しか書かれていない「レポート」が多い。こうした現状に対して、著者sはこの本を通して、(1)内容より体裁を重視する本末転倒、(2)分析・意見・主張の不在、(3)言葉に対する鈍感さ、という3点について警告を発している。そして、最終章で、豊かな日本語力を身につけるためのセルフ・トレーニング法を紹介している。ぜひ、一読を勧めたい。

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上垣 渉 『初めて読む数学の歴史』 ベレ出版、2006年発行

上垣 渉 『初めて読む数学の歴史』 ベレ出版、2006年発行

高校までは、数学の内容を学習することがほとんどであって「数学がどのように発生し、発達してきたのか」という“数学の発展史"に触れることはなかったと言ってもよい。数学を学ぶとき、一度はその歴史に触れることを勧めたい。この本は、第I部・古代の数学、第II部・中世の数学、第II部・近代の数学という3部から構成されていて、この本一冊で、古代エジプトから近代の微積分法の発見までを通覧することができる。ぜひ、一読されたい。

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おススメの新書選び〜生物学に親しむ本〜 三重大学生命科学研究支援センター・助手 武村 政春(現在:東京理科大学理学部第一部教養学科・講師)

ろくろ首の首はなぜ伸びるのか〜遊ぶ生物学への招待〜ラッセルのパラドクス四国遍路の近現代

昨今の生命科学の進歩は著しいですが、いくらDNAとか遺伝子とか言っても、あくまでも「生物」そのものを見つめなければ生命科学はいい方向へは向かいません。というわけで、その勢い余って「生物」を通り越し、「想像生物」までも見つめてしまったのが昨年12月に出版した『ろくろ首の首はなぜ伸びるのか〜遊ぶ生物学への招待〜』(新潮新書)です。編集者いわく、「こんなにウソだらけの新書はおそらく初めて」とのこと。

そもそも新書というのは、安価で買えて手軽に教養を身に付けることができるのが「うり」でした。これが、架空の生物を現実に引き出す手法もいい加減なら学名もめちゃくちゃとなれば、それが「教養」に結びつくわけはありませんが、実はこの本はそれが「うり」だったわけです。読みながら考え、想像して楽しんでいただこうというわけです。

ここで、私がおススメする新書を一つご紹介しましょう。三浦俊彦著『ラッセルのパラドクス〜世界を読み換える哲学〜』(岩波新書、二〇〇五年十月刊行)です。ラッセルと言えば、二十世紀イギリスを代表する哲学者、論理学者、数学者であり反戦活動家、そしてノーベル文学賞受賞者で、書名が示す集合の論理に関するパラドクスの発見者として有名です。経歴や業績からはおよそ生物学とは無縁のようですが、しかし人間が生物の一種であって、脳の活動としての精神・思考が生物学的諸過程として解明されるとすれば、哲学も論理学も、そして妖怪など想像上の生物も、すべからく生物学と密接に関係していると言えます。

生物としての一人の偉大な学者の思考の足跡を辿るとき、多種多様な生物種の中での人間の位置付けと、そのあるべき姿が浮かんでくる。『ラッセルのパラドクス』は、そんな一冊ではないかと思います。とにかく頭を使うこと。考えてみること。想像して楽しむこと。新書の醍醐味は、安価に教養を身につけるだけではなく、ものを考える機会を与えてくれることなのです。

私たちは当たり前だとみんなが思っていることを、どれだけ疑うことができるでしょうか。私が生まれ育った四国には、88の寺院をめぐる「四国遍路」という仏教の巡礼が長く伝えられています。四国遍路は日本の伝統文化だとか、癒しの旅だとかよく言われます。

簡単に言えば森正人『四国遍路の近現代―「モダン遍路」から「癒しの旅」まで―』(創元社、2005年)は、そうした常識を疑うことを目的にしています。明治時代から現在まで、四国遍路は単なる宗教的な巡礼であっただけでなく、マスメディアや国内観光といった商業、あるいはナショナリズムという政治とかかわりを持ってきたことを明らかにしました。みんなの常識の皮を少しはがしてみると、意外にも常識だと思っていたことはぜんぜん常識じゃなかったという、少しへそ曲がりな本がこの本なのです。

なぜみんながこれまで納得してきたこととは違うことを明らかにする必要があるのでしょうか。それにはさしあたり、みんながたった一つのことを「真実」だと信じている状況は危険であること、様々な角度からものごとを眺めていくつもの「真実」があることをみんなで認めることが大事だという理由を挙げておきたいと思います。

さて、物事をこれまでとは違った視点を眺めることは重要ですが、それには、広い知識を持つことだけでなく、自らその世界に飛び込んで経験することも必要となります。両方とも必要なのですが、とりわけ私はまず学生に後者を薦めています。

常識のカラを内側からこわすために 三重大学人文学部文化学科助教授 森 正人

深夜特急

沢木耕太郎『人の砂漠』(新潮文庫、1980年)は、私が学生時代に影響を受けた本の一つです。

私の学生時代には沢木氏の『深夜特急』がおおはやりで、私もリュック1つでアジア諸国を貧乏旅行しましたが、『人の砂漠』は社会から見捨てられてしまった事件や場所へと分け入り、それを掬い出そうというものです。孤独死した老婆、婦人保護施設、屑の集荷場、相場師…。筆者は彼ら彼女らに寄り添い、ある時は自らも一緒に働き額に汗することで、社会を違った側面からとらえ直そうとします。

近頃、とかく純愛系や感動系の書籍がうけていますが、「感動」というのは単に涙をながすことだけではないはずです。日常の片隅に追いやられた物事を見据え、そこに人間の素晴らしさを探し出すこの本から、感動という言葉の意味を取り戻すことができるかも知れません。

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